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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)158号 判決 1983年11月17日

原告 バロース・コーポレーション

右代表者 エラ・エム・マンテック

右訴訟代理人弁理士 深見久郎

同 森田俊雄

同 小柴雅昭

被告 特許庁長官若杉和夫

右指定代理人 藤原博

<ほか四名>

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

この判決に対する上告期間につき、附加期間を九〇日とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告は、「特許庁が同庁昭和四九年審判第三四三八号事件について昭和五五年一月一一日にした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二請求の原因

一  本件訴に至るまでの手続の経緯

訴外グラフイック・サイエンシーズ・インコポレーテッドは、名称を「電話線を用いるファクシミリ伝送装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき、一九六九年二月二四日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和四五年二月二四日特許出願をしたところ、昭和四七年六月二〇日出願公告(特許出願公告昭四七―二一九二六号)されたが、特許異議の申立があり昭和四八年一二月一〇日拒絶査定を受けたので、昭和四九年五月七日これに対する審判を請求し、特許庁昭和四九年審判第三四三八号事件として審理され、昭和五五年一月一一日右審判の請求は成り立たない旨の審決があり、その謄本は同年一月三一日同訴外人に送達された(なお、出訴期間として三か月が附加された。)。原告は、昭和五四年一二月一二日同訴外人から本願発明に係る特許を受ける権利を譲り受けたものであるが、昭和五五年五月二八日本件訴を提起し、その後同年七月一六日特許庁長官に対し前記特許を受ける権利の譲渡があった旨を届け出たものである。

二  本願発明の要旨

原稿を走査し、原稿の内容に対応する情報信号を変調搬送波の形で伝送するように構成された送信装置と、前記情報信号に応答して前記原稿の複写を印刷するように構成された受信装置とを含む型式のファクシミリ伝送装置であって、前記装置の第一ユニットにおいて、第二ユニットに初期信号を伝送する装置と、前記第二ユニットにおいて前記初期信号を検出し、それに応答して応答信号を送り返す装置と、前記第一ユニットにおいて前記応答信号を検出し、それに応答して前記初期信号を終了させる装置と、前記初期信号の終了を検出し、それに応答して外部始動信号を発生する装置と、各ユニットにおいて、前記外部始動信号に応答して内部始動信号を発生する装置と、前記ユニットにおいて、走査と印刷との過程に含まれた運動を前記内部始動信号と同期させる装置とを含むファクシミリ伝送装置。

三  本件審決の理由の要点

本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。

これに対し、本願発明の優先権主張日前に日本国内に頒布された刊行物である社団法人電気通信協会発行、雑誌「電気通信施設」第一五巻第一一号(昭和三八年一一月一五日発行)の第七六頁ないし第八六頁(以下「引用例」という。)には、「送信側S機からダイヤルを行ない送信側及び受信側との間に回線が構成されると、受信側R機から五〇〇C/Sの接続OK信号を送信側S機へ送り返す、送信側でこの接続OK信号を受話器で確認するとR機に位相信号を送出する、受信側ではこの位相信号によってR機とS機の位相関係を調整した後、位相OK信号をS機に送出する、送信側S機ではこの位相OK信号によってリレー回路を動作させて画信号を送出するように構成された電話線を用いたファクシミリ伝送装置の動作制御方式」が記載されている。

本願発明(前者)と引用例に記載されたもの(後者)とを対比すると、両者はいずれも、原稿を走査し、原稿の内容に対比する情報信号を変調搬送波の形で伝送するように構成された送信装置と、前記情報信号に応答して前記原稿の複写を印刷するように構成された受信装置とを含む型式のファクシミリ伝送装置であって、前記装置の第一ユニット(前者では送信装置、後者では受信側のR機に相当)において、第二ユニット(前者では受信装置、後者では送信側のS機に相当)に初期信号(後者では五〇〇C/Sの接続OK信号に相当)を伝送する装置と、前記第二ユニットにおいて前記初期信号を検出し(後者では受話器で確認に相当)、それに応答して応答信号(後者では位相信号に相当)を送り返す装置(後者では起動ボタンをONすることにより)と、前記第一ユニットにおいて、前記応答信号を検出し、この検出後、外部始動信号(後者では位相OK信号に相当)を発生させる装置と、各ユニットにおいて、前記外部始動信号に応答して内部始動信号(後者ではリレー回路を制御する信号に相当)を発生する装異と、前記ユニットにおいて、走査と印刷との過程に含まれた運動を前記内部始動信号と同期させる装置とを含むファクシミリ伝送装置である点では一致し、ただ、前者では第一ユニットにおいて応答信号(後者の位相信号に相当)を検出し、これにより初期信号を終了させ、該初期信号の終了を検出した後、外部始動信号を発生しているのに対し、後者では第一ユニットにおいて応答信号を検出し、第一ユニット側の位相調整を行なった後、外部始動信号(位相OK信号)を発生している点で相違するものと認められる。

そこで、前記相違点を検討するに、前者で初期信号を終了させなければならないのは、第二ユニット側から応答信号を送り出す時点でも初期信号が継続して送出されているためであり、これに対して後者では応答信号(位相信号)を出す時点(起動釦を押すことにより)では初期信号(接続OK信号)はすでに送出されていないのでその必要がないからにすぎず、前者において、特に初期信号を終了させ、それをさらに検出するように構成したことに基づく特有の作用効果は認められない。したがって、この点は単なる設計上の問題にすぎないものと認められる。

以上のとおり、本願発明は引用例に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法第二九条第二項の規定により特許を受けることができない。

四  本件審決の取消事由

引用例の記載内容が審決認定のとおりであることは、争わないが、本件審決には、次のとおり、これを違法として取消すべき事由がある。

1  審決は、本願発明と引用例との一致点の認定を誤っている。

(一) 審決が本願発明と引用例のものが「第一ユニットにおいて第二ユニットに初期信号を伝送する装置」を含む点で一致するとしたのは、誤りである。

(二) 審決が、本願発明と引用例のものが「第二ユニットにおいて初期信号を検出し、それに応答して応答信号を送り返す装置」を含む点で一致するとしたのは、誤りである。

(三) 審決が、本願発明と引用例のものが「各ユニットにおいて外部始動信号に応答して内部始動信号を発生する装置」を含む点で一致するとしたのは、誤りである。

(四) 審決が、本願発明と引用例のものが「各ユニットにおいて走査と印刷との過程に含まれた運動を内部始動信号と同期させる装置」を含む点で一致するとしたのは、誤りである。

2  審決は、「前者(本願発明)で初期信号を終了させなければならないのは、第二ユニット側から応答信号を送り出す時点でも初期信号が継続して送出されているためであり、これに対して後者(引用例)では応答信号(位相信号)を出す時点(起動釦を押すことにより)では初期信号(接続OK信号)はすでに送出されていないのでその必要がないからにすぎず、前者において、特に初期信号を終了させ、それをさらに検出するように構成したことに基づく特有の作用効果は認められない。したがって、この点は単なる設計上の問題にすぎないものと認められる。」とするが、誤りである。

第三被告の陳述

一  請求の原因一ないし三の事実は、いずれも認める。

二  同四の審決取消事由の主張は争う。審決に原告主張のような誤りはない。

1  本願発明と引用例との一致点について、審決の認定に誤りはない。

2  審決が、本願発明において、特に初期信号を終了させ、それをさらに検出するように構成したことに基づく特有の作用効果は認められず、この点は単なる設計上の問題にすぎない、としたことに誤りはない。

第四証拠関係《省略》

理由

当事者間に争いのない請求の原因一の事実及び本件記録によれば、本願発明は訴外グラフイック・サイエンシーズ・インコーポレーテッドの特許出願に係り、拒絶査定に対する審判請求の審決に対しては同訴外会社は取消の訴提起期間内に訴を提起せず、原告が右訴外会社から特許を受ける権利を譲り受けたものとして、訴外会社が取消の訴を提起すべき期間内に、本件取消の訴を提起したものであるが、原告は、訴提起当時及び訴提起期間内には右訴外会社から特許を受ける機利を譲り受けたことを特許庁長官に対して届け出ず、その届出をしたのは訴提起期間経過後である昭和五五年七月一六日であること及び原告の右特許を受ける権利の承継は一般承継によるものではないことを認めることができる。

ところで、特許法第三四条第四項によれば、特許出願後における特許を受ける権利の承継は、相続その他一般承継の場合を除き、特許庁長官に届出なければ、その効力を生じないから、原告の提起した本件審決取消の訴は、審決の名宛人となっていない者又は審決の名宛人となっている者から特許を受ける権利の譲渡を受けたことを主張し得ない者、すなわち取消の訴の原告となり得ない者の提起した不適法なものであって、その欠缺は、原告が取消の訴提起期間経過後特許を受ける権利の譲受を特許庁長官に届け出たことによって補正されることはないと解すべきである。

右のとおりであり、原告の本件訴は不適法であって、その欠缺は補正することができないものであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第一五八条第二項の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高林克巳 裁判官 杉山伸顕 八田秀夫)

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